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シンセサイザーひと筋何十年というベテランが、こんなことを話していた。自分はシンセサイザーを使えばたいていどんなサウンドでも創り出せるが、どうしても再現できない音がひとつだけある、と。それは、「ハンドクラップ」なのだそうだ。▼意外に思うかもしれない。私も意外に感じた。けれども、頭の中で何度か理想的なクラップを鳴らしてみると、たしかにこの音を波の合成や変形から生み出すのは至難の業に思えてきた。そもそも波として想像することすら難しい、かなりカオティックな音だ。しかも、綺麗と思えるクラップはひとつではない。いろんな音色がある。▼ハンドクラップと言いつつ、あの音はひとりの拍手ではないので、実情はハンドクラップスである。複数人が同じ音を違う強さで、違うタイミングで、違う音色で発した響きの総合計である。言わば出自からして、無数の相違を内包している音なのだ。カタカナで擬音を書くのも難しい。奥深い音である。
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