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天声人語の栗田氏は言う。「文をつづって興に乗ると、しゃれた表現を試みたくなる。野心的なのは大いに結構だが、しゃれた表現=不正確な表現になってはいけない。」▼氏の本でこんなエピソードが紹介されている。井伏鱒二が文化勲章を受けたときのこと、自宅を訪ねた記者が「ご感想は」と聞くと、彼は「晴れがましい気持ちです」と応じたが、すぐに「いや、ちょっと待って」とメモを取る記者を制して広辞苑を引いた。そうして「晴れがましい」の項目に見入り、「うーん、違うな。僕のは晴れがましいというよりも、もうちょっと照れくさいという感じなんですね。」と言った。▼大作家でも疑問があればすかさず辞書を引く。いや、そういう習慣の身についた人物だからこそ大作家である。なんとも教訓に富んだ話だ。尚、この節を踏まえて広辞苑の次版には、井伏の表現しようとした「照れくさい。きまりがわるい」の意味合いが追加されたそうだ。大作家、恐るべし。
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