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夜の帰り道、いつもの遊歩道に満開の桜が白く輝いていた。花のひとつひとつが咲きながら輝いているというような、その世にも美しい光景を作り出していたのは、桜の中に埋め込まれた真新しい街灯である。▼もちろん事の順序は逆で、街灯のあるところへ桜が枝を伸ばしてガラスの球ごと包み込んだのだろうが、それにしても洒落た意匠だと足を止めて感心した。左右に視線を走らせると、薄暗がりに色を失った桜並木が街灯へ近づくにつれて桜色を取りもどし、やがて眩しいほど白くなる。その人工の光が自然の色と溶け合う滑らかなグラデーションが、空想で描かれた絵のように非現実的で美しいのである。▼しばらく立ち尽くして印象を心に留めていた。本当の桜の鑑賞とはそういうものではないよと誰かの声が聞こえる気がした。本当の鑑賞とはなんだろう。どうして放っておいてくれないのだろう。歌の練習をしないのなら、歌うべきではないといきり立つ人々の声である。
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