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十二歳から数年間、つまり中学校へ進学して間もない頃、マジックに凝っていた時期がある。カードゲームではなく手品の方だ。高島屋の手品コーナーへよく遊びに行っていたのでそのうち、実演のお兄さんと顔見知りになった。はじめは子供だましのようなトリック玩具で満足していたが、そのうち彼の得意なトランプマジックを志し、私もバイシクルのトランプを買い揃えて練習に励んだ。▼しばらくのあいだ、どこにでもトランプを持ち歩いた。歩きながらでも切っていた。電車の中でばら撒いたこともあった。やがて基礎的な技術が身につくと、同級生くらいはあっと驚かせられるようになった。驚かせられるようになったその後、必至で習得した手先の技術の熟練度より話術や心理操作の方が大事だということがわかってきた。けれども、毎度似たような口先三寸で煙に巻くのに飽きて、そのうちやめてしまった。あれほど熱中した遊びも、いまはすっかり昔とった杵柄である。
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