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フィネガンズ・ウェイクのような、文章自体が読めないものは別として、私は今まで読んだ本の中で、物理的な文字の表現方法のせいで、最も読みにくかった本を挙げることができる。岩波文庫・青より、フォイエルバッハの『将来の哲学の根本命題』だ。▼なぜ読みにくいか。本屋で立ち読みしてみればわかる。すべての文字が太字のような濃さな上、尋常ではない量の傍点が打たれているのだ。冗談ではなく、過半数の文字に傍点が打たれている節さえある。ありとあらゆる文が強調されている。つまり、結果として、何も強調されていない。▼傍点は、楽譜でいうところのアクセント記号に似ている。曲の始まりから最後まで、強拍も弱拍も関係なく、ただ少し力の入りそうな音のすべてにアクセント記号が振られた曲のうるささを想像してみて欲しい。曲想の壮大さ、メロディの美しさ、そんなことを考える以前に黙って耳を塞ぎたくなるだろう。私も当時、目を閉じたくなった。
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