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一連の菊地成孔シリーズのつづきとして慣性の命ずるままに『スペインの宇宙食』まで手を伸ばしたが、端的に言ってこれは好かない。好みの問題と言われればそれまでだが、彼は自らの人並み外れた人生を武勇伝風に語るより、音楽の過去と現在と未来についてとりとめもなく喋っているときのほうが、私には遥かに輝いて見える。▼私は露悪趣味に人生のエッセンスがあるとは思わない。平和で穏やかな生活を上っ面と称し、人生の真実は薄汚い舞台裏にこそ溢れていると思い始めたら、そして言い始めたら、遅かれ早かれ行き着く先は「より狂人ほど真実に近づく」という秘教じみた精神病である。インナーサークルもかくありやという泥沼に沈んでいくだけのことだ。▼どん底のきらきらした体験を否定するのではない。ただ、あまりに毒の抜けない私的な煌めきは心のうちに留めて、より素直でまっすぐな人生を目指したほうが、――結局は、私の好みだというだけの話である。
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