2006年09月18日

●スピノザ『知性改善論』

岩波文庫・青/120p

正式名は、『知性の改善に関する、並びに知性が事物の真の認識に導かれるための最善の道に関する論文』。スピノザの主著『エチカ』の序文の役割を為す一冊。難しくてよくわからない箇所も多く、いずれエチカを読んだ後でもう一度目を通しておいたほうがいいかな、という印象。それだけに今は考察できることも少なく、下に気に入った二箇所の引用をするに留めます。

……。ところでこうしたわざわいは、私には、次の事実から、すなわち、すべての幸福あるいは不幸はただ我々の愛着する対象の性質のみ依存するという事実から生ずるように思われた。全くのところ、愛さないもののためには決して争いも起らないであろう。それが滅びたからとて悲しみもわくまいし、他人に所有されたからとて嫉妬も起るまいし、何らかの恐れ、何らかの憎しみ、一言でいえば何らの心の動揺も生じないであろう。実にこれらすべてのことは、我々がこれまで語ってきた一切のもののような、滅ぶべき事実を愛する時に起るのである。

鉄を鍛えるためにはハンマーが必要であり、ハンマーを手に入れるためにはそれを作らねばならず、そのためには他のハンマーと他の道具が必要であり、これを有するためにはまた他の道具を要し、このようにして無限に進む。しかしこうした仕方で、人間に鉄を鍛える力がないことを証明しようとしても無駄であろう。事実、人間は、最初には生得の道具を以て、若干の極めて平易なものを、骨折って且つ不完全にではあったが作ることが出来た。そしてそれを作り上げて後、彼らは他の比較的むずかしいものを、比較的少ない骨折りで比較的完全に作り上げた。こうして次第に最も簡単な仕事から道具へ、さらにこの道具から他の仕事と道具とへ進んで、彼らはついにあんなに多くの且つあんなにむずかしいことを、わずかな骨折りで成就するようになった。それと同様に、知性もまた生得の力を以て、自らのために知的道具を作り、これから他の知的行動を果す新しい力を得、さらにこれらの行動から新しい道具すなわち一層探求を深める能力を得、こうして次第に進んでついには英知の最高峰に達するようになるのである。

スピノザ。名前は大変恰好いいのだけれど、思想や語り方はあまり肌に合わないかもしれない。残念。

16604p/42195p

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