2006年05月10日

●テオプラストス『人さまざま』

岩波文庫・青/162p

そこでわたしは、たまたま彼らにそなわっているさまざまな種類の気質、および公私にわたる諸問題の処理にあたって彼らの見せるやり方、それらを、一つ一つあなたに詳述してみようと思うのだ。

テオプラストスは古代ギリシアで、アリストテレスに学んだ一人。形而上学から政治学、倫理学、立法学、論理学、心理学、弁論術、自然学、動植物学及び哲学史などに通じ、アリストテレスの学園の第二代学頭もつとめた多才な哲学者だ。

といっても、ここで語られているのは重苦しい内容ではない。古代ギリシアに生きた人々がどのような気質――特に、へつらいだとかおしゃべりだとか、貪欲といった悪徳について――を見せているかを淡々と語っているだけだ。またその語り口も警句ではなく、喜劇に近い。

彼の師の師、即ちプラトンは次のように語っている。「自分が人から笑われる愚行を演じないためにも、喜劇を見ておく必要がある」。私たちは自分の中に潜む悪徳について、警句によってよりも喜劇によってよりよく気づかされる。作中の登場人物を笑っている最中に、ふと彼が自分に似た行動を取っていたり、全く同じ考え方をしている様を見たときには、いっそう身にしみてどきっとするものである。
『人さまざま』では実に30の悪徳について、その気質とやり方が語られている。どれも現代にまで通じる、人間の姿の一面である。どれひとつとして該当しないという超人はそうそういまい――自分がどれに該当しているかを確認しながら読んでいくのも、面白い。

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