2006年10月09日

●ヘーゲル『歴史哲学講義』

岩波文庫・青/744p

……。そもそも国家の大変革というものは、それが二度くりかえされるとき、いわば人びとに正しいものとして公認されるようになるのです。ナポレオンが二度敗北したり、ブルボン家が二度追放されたりしたのも、その例です。最初はたんなる偶然ないし可能性と思えていたことが、くりかえされることによって、たしかな現実となるのです。

ヘーゲルがベルリン大学で行った世界史の講義を、彼の死後弟子がヘーゲルの草稿と聴講生のノートをもとに編纂したもの。歴史には事実そのままの歴史、反省を加えた歴史、哲学的な歴史の三種類の捉え方があるとしてそれらの違いを解説し、最後に挙げた哲学的な歴史として、これまでの世界史を自由の発展の過程と見なして考察していく。中国、インドにはじまりペルシャ、エジプトを経て現代ヨーロッパへ至る東から西への歩みは、個々の歴史上の出来事にまつわるエピソードを背景に追いやって、「理性」というテーマによって貫かれている。現代ヨーロッパという完成形に向けて、理性と自由の観点からひとつひとつ真摯に考察を積み重ねて理論を展開していくさまには、かつての一世を風靡した偉大なヘーゲル教授が、堂々たる姿で教壇に立ち、熱弁を振るう姿が眼前に浮かぶかのようである。歴史を退屈と感じないなら、彼の歴史哲学に触れる意味でも、あるいはただ単に古代以来の世界史をまとまりのある講義で俯瞰する意味でも、是非読みたい一冊。

ただし世界史上の国名、人物名、民族名などなどが何の前置きも解説もなく並べられているため、スムーズに読み進めるためにはある程度の世界史の知識を要することには注意。世界史にくらい場合には、世界史辞典を手許においたほうが無難だ。

18574p/42195p

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